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  • 2016.05.06 Friday
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忘却の河の向こう

とうらぶ。審神者も長谷部も病んでる。似た者同士。あと何か、手心加えた。長谷部が割と大人。一応審神者は女の子。CP要素無い……と思うけど、見る人が見ればそう見えるかもしれぬ。支部にも上げときます。




 縁側の柱に凭れた少女の隣で、半円型の籐の籠に入れられた毛糸が、くるくる、くるくると回って居る。少女は細い金色の鉤針で、暗い緑色の毛糸を、小気味良いリズムで鎖編みにして居た。四段程が完成して居て、今も尚目は増え続けて居る。編み物に神経を集中させて居るからだろう、庭側に投げ出された足は、ぷらぷらと揺れて心許ない。季節の折り目が存在しない、或る意味では人工的な漠たるこの世界だが、そうは言っても神官白衣から見える華奢な手首は、緋袴とのコントラストも相俟って寒々しい。だが彼女自身はそんな事にはまるで無関心で、毛糸を一心不乱に編み続けて居る。腰の辺りまで延ばされた髪は項の辺りで一つに結われ、座る事で緩やかに縁側の床板を這って、抽象柄の様な紋を描き出す。室内の影がその艶やかな流れに揺れて、一幅の絵の様にも見えなくは無い。だが、彼女の関心は彼女の外に無い。自分の手に、自分の動きに、毛糸を誤らずに編んでゆくその法則性に、或いはそれを見守る己の胸中にだけ、彼女は神経を研ぎ澄ませて居た。彼女の手は迷い無く五段目を作り終えて、六段目に取り掛かった。指は絶えず滑らかに、まるで毛糸を編む為に生まれて来たと言わんばかりに、まるで彼女の道具であるかの様に、動く。只、軋む事も知らずに、忠実に。
 刀は、と彼女は集中を途切れさせる事無く、だが心中の小さな隙間でふと、呟く。刀は、道具だ。何かを切る為の。其処が、この両手と違う処なのだ、と。両手は道具では無い。錯覚するけれど、そして忘れ易いけれど、両手は彼女の一部だ。彼女自身であり、彼女の延長だ。部分は決して枝葉末節等では無く、全てが有機的に繋がって全体となる。部分は全体にとって、切り落とし可能なものではない。部分が死ぬ事で全体も須らく変質する。それも道具と違う処だ。自身という全体は変化する、部分を切り捨てる事で。だが道具を失った人間が変化する事は、まず無いだろう。あるとすれば、それは道具では無かったという事なのだ。
 六段目を半分ほど編み終えつつ、彼女は探す。道具でありながら道具の範疇を超えるもの。人間を――自身を変えてしまう道具。何だろう、と無意識に検索を速める。指は滑らかに動く。指は部分だ。指は全体を支える、彼女と言う全体を――自身を現在の彼女として存在せしめる偉大なる一部分である。
 自身を変容させる道具。彼女は左の人差指の、発条を巻かれた様な動きに或る種の滑稽さすら覚えながら、例えば、と口にする。例えば、記念品なんてどうだろう。結婚指輪、憧れの人の第二ボタン、母親の形見。そうした物は、人間を変えやしないだろうか。大切な物であればある程、それに執着するのは道理だ。それを得るに至った時、或いはそれを失った時、それらは人間を変えはしないだろうか。彼女は自分の中で、賽子を振るかの様に幾つもの仮想の物語を紡ぐ。艱難辛苦の末に、最愛の女を妻に娶る男。憧れの人の第二ボタン欲しさに、殺人を犯す少女。小さい頃、自分の所為で母を失ってしまった息子。どれも涙無しには知り得ない物語だ。やろうと思えば、それを情緒に満ち溢れるものにする事だって、彼女には可能だ。
 変えないな、とやや合って心中で断定する。その途端、彼女の陳腐な夢想は昼下がりの庭にさんざめいて消えた。動いて居るのは己の二本の手ばかりだ。自分の乾いた、砂の混じったかの様な味気無い心が妙に癇に障ったが、それはそれとして、記念品は証しだ、と彼女は感じる。既に変容した事を祝福する、或いは呪縛する、一つの証拠なのだ。それ自体が人を変えるのでは無い、変わった事の証が結婚指輪であり、第二ボタンであり、形見なのである。ああ詰まらない考え事だ、と思いながらも、毛糸の目は増えてゆく。お前は裏切らないな、と自分の骨ばった手が、まるで自分とは別の次元で動いてるかの様な錯覚を楽しみつつ、胸中で話しかける。話しかけたつもり、だった。
「裏切りませんとも」
 微妙な色を載せて後方から紡がれたその言葉は、彼女の思考と手の動きを乱す事に成功した。思考は四散し、指は動きを誤った。嗚呼醜い世界に戻ったのだ、と彼女は実感する。外の醜い世界も、彼女は嫌いでは無い。だが彼女は完璧が好きだった。彼女自身の要らない、彼女から離れて存在する均整の取れた何がしかが好きだった。今でもこうして、自分の手が自分の部分で無いならば、と夢想して居たではないか。
「――長谷部か。全く、驚かせるな」
 そう言って、編み方を間違えた目を一つ解く。編みあがった部分を膝に置くと、鉤針を籠に戻した。金色は陽の光を受けて、きらりと輝く。長谷部、と呼ばれた青年はその輝きに一瞥を投げて、申し訳ありません、と言いつつ主である少女に歩み寄る。数歩後ろ迄来ると、膝を折って正座する。腰掛けたら、と促されて、折り目正しく、ほんの少し間を取り、隣に座った。足を投げ出して座ると、膝裏に板張りのひんやりとした感触が伝わって来る。足が、無意識に揺れて遊んだ。
「――夢想して居た。この両手が、淀み無く毛糸を編んで居たのを見て。両手が私と無関係の何かしらに昇華されて、私と分離して完璧なものとして、動き続けたりはしないものかと」
 怪訝な顔をする近侍に、白昼夢だよ、と柔らかく言い返す。益々、表情は濁った。嗚呼、道具なのに、と心の何処かで溜息が漏れる。
「貴方の手がその様になったら、貴女は手を失ってしまう」
 生真面目なのに皮肉の混じったその口調に、彼女はくすり、と小さく笑う。また生えるんじゃないかな、と言うと、頭を振る気配。
「私全部が、私から離れて完璧に動き出す。そんな事があったら幸福だろうと思う」
 そう言い切って横に座す近侍を見遣ると、酷く嫌そうな顔をされる。何だ、と問うと、眉根を寄せて言い募られる。
「そうなったらもう、貴女は貴女の為にすら生きない。それは、駄目だ」
 駄目だも何も、と思って矢張り笑う。不機嫌な表情は深まるばかりだ。彼の心の中に在る、誠実を超えてしまった畸形の感情を、彼女は何処かで酷く愛して居た。醜いものは愛おしいのだ。そして完璧な、善美たる存在は、彼女を外の世界から隔絶させる。
「長谷部は、イデアという言葉を知って居る?――人間が、忘却の河を渡る以前に見た世界を想起する、という事を」
 鉤針をもう一度持ち直すと、彼女はそう言いながら毛糸を編み始める。今度は、手は自分自身から離れたりはしなかった。他者と話す事で、この世界に心は繋ぎ止められる。その様子を静かに注視して居た近侍は、知りません、と囁く様に答えた。その声の頑なさが、鋭くも脆く彼女の耳に響く。黒曜石を耳に流された様な感覚を覚えた。それが鼓膜を劈いて、彼女を血みどろにする。そんな夢想も容易い。彼女の内なる世界は、彼女の想像に統べられる箱庭だったから、彼女自身を好きな様に弄べた。他者だけだ。他者だけが、彼女の思う様にならない。他者だけが、自分の部分では無いのに自分を変えてしまう。ならば、己の隣に居る一振りの刀は何だと言うのだろう。他者、それはそうだろう。だが道具では無いのか?切る為に、殺す為に命を享け、折れたら捨てられる。如何に来歴が素晴らしかろうと、道具は道具だ。それは彼女も、刀剣の前では隠しはするものの心の片隅で常々感じて居る事でもあるし、実際隣に座すこの男――この刀とて、同じ事を自問自答して居るに違いない。
「イデアは、完璧な概念の世界に住む。私は其処に行きたい。其処に帰りたいんだよ」
 説明になって居ない、という様な、淡い咎め立ての溜息が聞こえる。ふわり、と口許を綻ばせると、膝を抱える様に座り直して、編むペースを上げる。楽しいな、と明るい日差しの描く床板の不思議な模様を目の端に収めながら、彼女は言葉を続けた。
「例えば、完璧な球体は存在しない。それは何となく分かる?」
 むっとした様子で頷かれ、彼女は益々楽しくなった。
「だが、にも拘わらず人間は……お前達もかな、兎に角人格らしきものがある者達は、不完全な球体を見ながらも完璧な球体を想像する事が出来る。何故だろうか、その疑問に大昔の哲学者が、一つの美しい物語を考え出したんだ。私達は肉体を得る前は、忘却の河の向こう側に在るイデア界に居たのだと」
 鉤針は八段目を編み出して居た。すいすいと動く鉤針を見ながら、主の軽やかで煌めく様な、万華鏡の様な声音を聴きながら、真っ暗な気持ちで己の濁った目を、耳を、そして人格とやらを得た醜さを思う。その金色の鉤針が、己の目を抉り取らないだろうか。眩しい程の玻璃細工の様なその声が、鼓膜を切り裂かないだろうか。その為に、彼女が手を動かし、声を発するのならば、己が此処に居る意味もある。彼女は彼女の為に生きて居る。或いは、彼女自身よりも大切に思う何かの為に。それが彼女自身であれ、理想であれ、またイデアであれ、彼にとってはどうでも良い事だった。只、主に従うだけだ。それ以外は全部、心の中のどろどろの底無し沼に沈めてしまえば良かった。だが、と弥陀の来迎を望む様な気持ちで、小さい幼い、たった一つ残された自分の望みを、心の中でぎゅっと握り締める。どうか見捨てないでくれ、と。世界の最も汚れた片隅で良い、主の生きる世界の何処かに存在して居たかった。忘れられても良い、だが関わった証が欲しかった。この人に変えられてしまった事を証立てする何かが欲しかった。それが破壊される事ならそれでも良い。眼窩を空にする事でも、右耳を洞にする事でも。貴女が変えてしまったんだろう、と詰る様に胸中で叫んだ。己の人格の醜さを、彼は決して嫌ったりしなかった。その最も醜い、最早腫瘍の様な畸形だけが、彼の自己に深く根ざして居た。
「私は、いつもイデア界を夢想する。其処に帰れたらどんなに良いだろう、と思う。私が私を離れて、私の醜さの全てを捨てて、只確かな善美だけを秘めて、天上の扉を開けたなら、と」
 屹、と突然彼の主は、彼の双眸を見詰める。その勁さに、ぎくりとして肩を揺らした。
「――では貴女の醜さは、この地上に残ると?」
 俺が欲しいのはそれだ、と迄言うだけの傲慢さは持ち合わせて居なかった。だが彼女には見抜かれて居たかもしれない。どちらでも良い、と思った。醜いのはお互い様だった。否、この世界の在り様に従っただけなのだ。この醜い世界の、正しい在り様だ。彼女の内奥に存在する美しさも正しさも、それは誰の感情の為にも存在しない。只、置物の様に其処に在るのみだ。何も為さない事が、善美だった。この世界にはそんな風にしか、善きものも美しきものも存在し得ない。片隅に、忘れられたかの様に。ならば、と長谷部は己の先程の思考をつらつらと辿る。彼女の住む世界の片隅にでも存在したい己は、矢張り美しさに憧れて居るのだろうか。主にとっての一握の玻璃、一服の慰め、美しく正しく、そして無力で在りたいのだろうか。違う、とは思わなかった。彼女の為に破壊されるのも、視力を奪われるのも、鼓膜を切り裂かれるのも、全て羨ましい事だった。恋い焦がれる事だった。ならば彼の、この世界に従って醜く肥え太った力は、人を斬り殺す為だけの己の意義は、長谷部自身にとって何の意味も無いものだった。主の為に斬り殺せれば、主の世界に置いて貰える。主の世界に、己が己であるというだけで置いて貰えるならば、醜いこの力は全て要らなかった。何者にもなれなくて良いのだ。只、主の――彼女の目交に、自身の姿を思い出して貰えれば。
 それがイデアか、と思い至って、うっすらと悲しみを覚える。彼女の中に、彼女の世界に住む己さえ居れば、己自身は打ち捨てられて構わない。彼女の世界は、忘却の河の向こう岸にある。永遠に思い出せない、理想の園に在る。嗚呼同じ事を考えて居たのか、と思った。只単に、彼女にとって醜いものは、長谷部にとっては美しいものだったというだけだ。
「お前は死体を喰らう鴉にでもなった心算か」
 呆れた様子で編み物を再開する主に、何となく腹が立った。全て思った事を言ってやろうかと思った。醜い世界に、引き留めて汚してやろうかと。だから、彼女の目の高さに在った毛糸の編み目と鉤針とを、右手で掴んで膝に引き下ろす。驚いた顔が見えた。少しだけ満足を覚えて、口の端を上げる。忘却の河の対岸の事を、長谷部は全く覚えて居ない。なのに彼は変えられてしまった。そう生まれ出でてしまった。その責任を取ってくれ、と図々しく心中で呟く。そういう気持ちが、前の主に対してもある。主はいつでもそうだ。道具だ道具だと言いながら、好きな様に長谷部自身を変質させる。そして飽きが来れば、主の世界から締め出される。主の所為で変わってしまったのだ、と思うと、愛おしくも憎らしかった。肯定が欲しい。証しが、或いは証立ての要らない程の信頼が。強欲だ。だが当然だとも思う。あんたが俺を俺にしたんだ。
「……貴女のイデア界が何処に在ろうとどうでも良いけれど、俺にとってのそれは、貴女の中に在る。それを軽んじて、自分だけ河を渡って理想郷へ行くのは、赦さない。何としてでも引き留める」
 彼女は目を丸くして、へえ、と、皮肉っぽく相槌を打つ。駄目ならどうする、と言いながら彼女は鉤針を放ると、空いた右手で長谷部の片頬に触れた。さらさらとした感触が心地良い。
「駄目なら、その鉤針で俺の目を刳り貫いて下さい」
 その言葉に苦笑が見える。右手は頬から上昇し、瞼にゆるりと被さった。親指の腹が優しく瞼を撫でた。
「それが何になるんだ、私にとって。或いは、お前にとって」
 その言い方には、一種の諦観が見て取れた。証しになる、と小さく言った。私にとってもか、と面白そうに聞き返される。
「貴女の善美は俺の目を刳り貫いた事を忘れないでしょう。それを……喩え貴女の醜さが捨て置いたとしても」
 ふと、彼女は僅かな、言い様の無い感情をうっすらと面に刷いて、只ひたむきに長谷部を見詰めた。毛糸を編む時の、或いは自身の両手の動きを見る時の目に、酷く近しかった。己が天上の扉を開いても――それ自体が彼女自身にとっては言葉遊びに等しい、空虚な喩え話に過ぎなかったけれど――己の中に、道具が残される方法を知ったのだ。それは彼女にとって新しい発見だった。否、道具と他者が本質的に同じであると悟った瞬間だっただけかもしれない。だが兎に角、己が変わるのと同様に、道具も己によって変えられてしまうのだ。その重さを、ぼんやりと知った。刀剣から顕現させた付喪神の多くが己に微妙な色合いの執着を見せるのも、要するに皆、忘却の河の向こう岸を探して居るからに過ぎない。皆、誰かによってこの世界に産み落とされてしまった。その誰かに捨てられる事、捨てられた事が、永遠に許せないのだ。この世界に受け入れられてしまった事が、信じられないのだ。
「……ねえ長谷部、この世界は醜いね」
 彼女はそう言うと、編んで居た毛糸の端を引っ張って、全て解いてしまった。驚く近侍を見返し、ちらりと笑うと、毛糸玉をくるくると巻きながら、何でも無さそうに肩を竦める。
「私は、お前の望む何かを渡せそうにない。だが、イデア界になんて行かない。お前の住んで居るのとは異なる世界に行ける私では無い。だから、証立ても出来ないんだ」
 ごめんね、と言いながら彼女はもう一度鉤針を取る。
「でも、もう少しましなものを、醜悪でも善美でも無い、この世界に馴染むものをあげよう」
 鉤針が動く。目が出来る。襟巻で良いか、と問われた。数瞬意味を捉え損ねて、口ごもりながら肯う。笑われた。
「遠征の際に、寒くて大変だったと言って居たでしょう。前田達の為に手袋を編もうかなと思って居たのだけれど。何だかお前に、先に渡してあげたくなって来たから」
 白い手袋は外して欲しく無いし、と言いつつ、軽やかな手つきで鎖が編まれる。清々しい動きだった。ふと、風が吹いて二人の髪を穏やかに揺らす。
「――お気遣いありがとうございます。襟巻も」
 真面目くさってそう答えると、明るく笑われた。醜い、この世界の流儀だ。
「精々、これが編み上がる迄に破壊されない様にしてくれね。そしてお前だって、何処の世界に行っても駄目だ」
 淋しいのはこちらもなんだから、という言葉に、眩暈を覚える。滑稽な想像をした。変えられてしまって、存外嬉しいのかもしれないと。ならば、臆する事無く、淀みなく変化し続けてみようか。この少女に、何処までも流されて変えられてしまおうか。新しい、醜い歓喜が湧いた。天上を味気無く思った。
「仰せの儘に」
 囁く様に答えると、満足げに笑う気配がある。淫靡な気持ちが湧いて、毛糸を編む手を無理やり引き寄せて口付けてみる。華奢な右手は、其の儘彼の手を離れて、短い髪を優しく梳いた。宜しい、と声がする。犬になった様な気もした。だが矜持を叩き折られた恍惚感が彼を満たして居たから、それすらも嬉しく思った。与えられたものは、何もかも特別だった。そんな風に己が変わった事が、そうやって知らない己へと変容してゆく事が、彼女に必要とされるという事だった。他には何も考えない。嘗ての自分は、もう愛おしくない。そう感じられる己が誇らしい。天上の夢は燃やしてしまおう。イデアの園に住まう、己を映さない主の像は、炎に巻かれて死んでしまえば良い。そうだ、前の主はそれだから死んだのだ。酒を飲んだ時の様に、喉元がすっとした。帰れなくて良い。故郷は火宅だ。生まれる前の、美しさに囲まれた無知の喜びに、彼は背を向ける。主の手を見遣れば、編み目は三段目に来ている。醜い世界だ。誰もが傷つけ、殺し合わないと生きられない。だから、己はこの世界に良く馴染む。
「白昼夢を見たのです」
 小さく呟くと、そうだろうよ、と返された。河なんて無かったんだ、と言うと、声に出して笑われる。
「あんな河、とうの昔に干上がったよ」
 その答えが可笑しかった。ふと、彼女の仄暗い夢想は、そう思って居るにも拘わらず続いて居る事を感じる。可哀想な人だ、と思って、心の中で矢張りもう一度、嘗て河だったその堤に、小さく水を注いでやった。


  了

 

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  • 2016.05.06 Friday
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  • 04:54
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コメント
美味しいよ!ほしなみの小説美味しいよ!
とうらぶというジャンル名を借りてPixivに投下されることで、こういうのを美味しいと思う人に読んでもらえたと思うと嬉しいですね。
なんと言うか、とうらぶというよりほしなみの小説でした。(笑)ご馳走様です。

手が自分から離れて勝手に完璧に動けばいいのに…ってところ、前に私が先生に言われて数ページだけ読んだリルケの『神様の話』(神様の手の話?)のイメージと似てるなと思いました。
神様が右手と左手に世界を作らせるけど、右手と左手は神様が監視してくれない間に、神様が気に入らない世界を作って罰を受ける…みたいな。

ともあれ、ほしなみの小説読めて嬉しいですー
  • Σ
  • 2015/03/21 10:16 AM
わ!Σさんコメントありがとでっす!!
リルケそんなん書いてるんだ……今度機会があったら読んでみようかな。そしてこの人文ヲタク感よ……w

とうらぶというジャンルは、楽しいけど空中に浮いて楽しんでる感じなので、どうしても作品世界に入ったものが書けないですね。それが良い場合もあるけど、萌え共有みたいな点ではやっぱり一人浮いてるなあ、とはちょっと思います。しょうがないか。

長谷部さんはね……めんどくっさくてね……ヤンデレ予備軍でね……将来有望なんだよ……

コメントありがとでしたー!嬉しい!
  • ほしなみ
  • 2015/03/23 12:36 PM
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